システマティックに新規事業を企画する

今日は「どうやったら新規事業企画をシステマティックなプロセスにできるか」がテーマ。

ステマティックに新規事業を立ち上げたい

新規事業立ち上げが一切不要という会社はめったにないが、新規事業で繰り返し成果を出すのはそう簡単ではない。しかも新規事業ってなんだかすごい閃きとか商才とかフットワークの軽さとか、いわば生まれつきの才能でギャンブルしてるみたいな印象もある。そういうのに頼らずにシステマティックに新規事業を立ち上げて成功させるためには、天才と凡人のギャップを埋めてくれるうまいメソッド、すなわち「トライ数」と「打率」をそれぞれ向上させるメソッドが必要だ。

まず「トライ数」だが、そもそもトライしてる時点で結構イケると思ってるわけだ。アイディアを出しても、それがイケてなかったらトライする前にボツにするから。じゃあ結構イケると思われるアイディアってどうやったら量産できるんだろう?そもそもイケてるかどうかって、企画者や企画部門の主観に過ぎないわけだが、その主観ってどこから来てるのだろう?

アイディアがイケてると思うかどうかは、それを評価する人の価値観に大きく左右される。例えばエンジニアだったら技術的な面白さやどんな新しいことが実現できるかで判断するだろうし、マーケッターだったら自分だけが気づいた市場の随所に見られる共通のニーズの芽やニーズの潜在的な広さを判断材料にするだろう。つまり主観でイケてるかどうかを判断する。よって主観のブラッシュアップも、新規事業の企画プロセスの一部だと考えたほうがいいだろう。天才はそんなことを意識する必要はないが、凡人を打率王に仕立て上げるにはそうやってプロセスを分解して考えるのが得策だ。

そこで、マーケット(マクロ・ミクロ問わず)について知った情報や、技術的なネタ(シーズと呼べるほどの成果でなくても)など、新規事業に結びつきうるものを全て「ナレッジ資産」として管理するというのはどうだろう?

ナレッジ資産管理の要件

ナレッジ管理といえば、一時期ナレッジマネジメントシステムという種類のシステムが流行ったが、それがメインというよりは企業内コラボレーションシステムという位置づけのものが普及したと思う。そこで実際に使われている機能は、主に「情報の共有と保管」だと思う。メンバー間でシェアしたり保管していつでも取り出せるというアクセス性の向上はオペレーションの効率を高めただろうが、ナレッジ管理システムとして使うには「情報の評価」が出来なければならない。つまり、情報を資産として扱い、資産の評価が出来なければならない。

ナレッジ資産の評価として、例えば、エンジニアが作った「技術ネタA」と、営業マンがクライアントからつかんだ「ニーズの芽B」があって、AとBを組み合わせて「商品企画C」という企画が生まれたら、A,B,Cのいずれもナレッジ資産としてシステムに登録されていて、CがAとBから生まれたことがトレース出来て、さらにAとBの資産評価として「Cを生ん
だという価値」が見える化されている、さらに「技術ネタA」が別のマーケット情報と組み合わせて「商品企画D」を生んだ場合にはAの資産評価を「繰り返し商品企画を生み出す重要技術シーズ」という位置づけにする、等々の機能が考えられる。

そもそも人間が「資産」という概念を生み出したのは、新たな資本を生み出す源泉という概念が必要だったからだ。「資本→『資産→資産→資産→資産→資産』→資本」、という風に、資本が資産に形を変え、その資産が資産を生みそれが繰り返されて、最後に資本に戻る、というプロセスを含む概念が「資産」なのだ。だから、ナレッジ資産というのは、それが新たなナレッジ資産を生み出し、最終的に「新製品リリース」や「その先の収益」といった目に見える指標に結実するまでのプロセス全体を管理して初めて「資産」と呼べる管理対象になるわけだ。

プロセス全体を管理して、製品リリース及び収益化まで成功例が蓄積すれば、それを逆算して各ナレッジ資産の「定量的な評価」が可能になるだろうが、こうしたナレッジ管理を導入したばかりの段階では逆算による評価はできないので、とりあえずナレッジの進行度(後述)に応じたカテゴリを予め決めて置いて、それぞれのカテゴリで評価スコアを当てつけるところから始めるしかないだろう。

具体例を次節で。

ナレッジ資産の例

とりあえず、ナレッジがどのくらい新規事業の実現に貢献しそうかを、そのナレッジの進行度(図中の矢印を下にいくほど進行度が高い)でカテゴリ分けし、カテゴリごとにスコアを割り振ってみた。ナレッジは大きく分けて、プロダクトアウト指向すなわちシーズに関するナレッジ(R&D情報管理)と、マーケットイン指向すなわちニーズに関するナレッジ(マーケティング情報管理)の、2つに分類した。スコアの割り振りや、カテゴリの分類はかなり私の主観だが、色々な人からみても汲み取ってもらえる意味はそれなりにあるかと思う。スコアを合計すればそのまま新規事業開発プロセスの進捗を測るKPIとして使うことが可能だ。

とくにR&D情報管理において、「技術の習得」というのカテゴリを入れているのはちょっと面白いと思う。つまり「勉強したことと仕事に役立つこと」といった自己啓発的なマネジメントの要素も含められるのが面白いところだ。組織でいえば、担当者の強みに応じて技術習得のスコアを割り振ってもいいかもしれない。

というわけで

とりえあえず新規事業開発のプロセスをシステマティックにするために、ナレッジ資産管理という視点でメソッドを提起してみた。実際にこれは一人カンパニーの弊社でやってみようと思う。

また本記事の次のフェーズとして、新規事業の成功・失敗事例が蓄積されたあとを想定して、最終的な成果指標からの逆算によって個々のナレッジ資産を評価する方法についても、改めて検討してみたいと思う。

さらに、こうした「ナレッジ資産」という考え方は、昨今のビッグデータビジネスにおいてもかなり汎用的に応用できると思われる。例えば、アドテクやデジタルマーケティングの世界で最近普及が進むプライベートDMPの発展形として、システムがある程度自動的にナレッジ資産を形成してくれるような機能が考えられる(参考エントリ:DMPとデータマイニング 参考エントリ中の「加工食品」は本記事の「ナレッジ資産」に相当)。

つまり、本記事ではナレッジ資産を生み出すのは人間だったが、技術シーズ、マーケットニーズともに、人間によって生み出したものをシステム上で管理するというプロセスに加えて、収集したビッグデータを使ってシステムがナレッジを生み出す機能も有望に思える。システムによるナレッジ生成は全自動でなくても、ナレッジを生み出す部分を人間と一緒に半自動的に行ったりということも考えられるし、逆にシステムが大量に提案する「ナレッジ候補」のなかから人間がスクリーニングに掛けて良いものを抽出するといったことも可能かもしれない。

ここまで書いて自分で思ったが、新規事業開発プロセスのシステム化を起点として検討したが、ナレッジ管理というテーマはビジネスオペレーションの全方面において今後引き続き検討すべきテーマのようだ。ブログネタが増えて、ビジネスアイディアも増えて、いいね。

ではまた明日。