原子力メモ

原子力エネルギーについて調べたのでまとめメモ。

広島や長崎で原爆や東北大震災とそれに伴う原発事故で被害にあわれた方々、その近しい方々の心情をあまり考慮せず、科学的知識を俯瞰するためのストレートな文章にしたので、事前にご容赦いただければ幸いです。

日本における発電シェア

日本の原子力発電のシェアは10%くらい。石油は1970年代は60〜70%くらいだったが、オイルショック以後は石油依存からの脱却が進んで現在は40%くらい。これは発電シェアの話で発電総量は増え続けており、石油による発電は絶対量としては横ばいで不足分の多くを原子力天然ガスのシェア拡大で支えている。また石炭のシェアもじわじわと上がってきている。なお、水力と地熱を合わせたとしても自然エネルギーは6%くらい。全体として化石燃料への依存は80%程度であり、他の先進国と(原子力に大きく依存するフランスを除いて)同様。出典はエネルギー白書

原子力はたったの10%。ただ天然ガスと共に総発電量の伸びを支えているので簡単には代替できなそう。

※ここで上げている数値は、あくまでも発電も含むエネルギー全体におけるシェアのデータです。原子力はほぼ100%発電に使われますが化石燃料(ガソリンとか)は自動車の動力源など発電以外の用途にも使われるため、原子力"発電"への依存度の数値としては「下限を知る目安」としてお考え下さい。(Nikorisさんご指摘ありがとうございます。)

日本の実稼動原発(=軽水炉

軽水炉というのが最も一般的な原子炉で日本で実稼動してるのはこれオンリー。これはウランを使う方式で、天然ウランの中に0.7%くらいしか含まれてないウラン235を濃縮したものが燃料になる。濃縮によって排出される「天然より235の割合の低いウラン」を劣化ウランと呼ぶ。天然に多く存在するのはウラン238という物質で、一部は軽水炉の中で235と一緒に燃えてプルトニウムになる(プルトニウムからその先の反応も少し進んだりする)。主燃料のウラン235が発電寄与分の70%を占め、残る30%はウラン238とプルトニウムの核反応。豆知識だがウラン埋蔵量はオーストラリアが世界一だが出荷量はカナダが世界一。

軽水炉のゴミとして、燃えなかったウラン238(含有量としてはこれが殆ど。97%くらい。)と、それらが一部燃えたプルトニウム(2〜3%と微量)に加えて、主燃料の235の燃えカスや一部のプルトニウムの燃えカスとして放射性の「ヨウ素」と「セシウム」がごく微量含まれる。福島の原発事故でヨウ素セシウムが空中に飛散したのは、同じゴミでもヨウ素セシウムは、ウランやプルトニウムと比べて軽い原子であるため沸点が低く、気体になりやすいから。

つまり軽水炉のゴミは「劣化ウランプルトニウム」というわけだ。当然ながらゴミを再利用するというのは自然な流れで、劣化ウランを再利用するのが「高速増殖炉」、プルトニウムを再利用するのが「プルサーマル」。いずれもこれから説明するが、その前に核兵器について少し。

核兵器について

原理はとても簡単で、それは「核分裂反応を起こす同位体の濃縮率を上げれば上げるほど核兵器に近づく」ということ。自然界にあるウランがそのままでは核爆発しないのは、核分裂がゆっくり進むウラン238の割合が多く、速く進む235割合が少ないから。よって速く進む235を濃縮すれば兵器となる。実に簡単な話だ。

広島の原爆はウラン235を90%以上に濃縮したもので、この濃縮率のウランを指して「兵器級ウラン」と呼ぶ。一方で一般的な軽水炉で使われる燃料は、核爆弾が作れるほど濃縮はされず(軽水炉用のウラン235は約3〜5%。)「原子炉級ウラン」と呼ばれる。

長崎の原爆はプルトニウム239。プルトニウムは自然界には殆ど存在しない「超ウラン元素」の一つ。プルトニウム239は天然に多く存在するウラン238(これが235でないところがポイント)から作られる。

おそらく、最初に使われた原爆が自然界に存在するけど希少なウラン235を濃縮したもので、その次の原爆が豊富なウラン238から作られるプルトニウム239であることは自然な流れに見える。そしてアメリカは来るべきソ連との戦いに備えて両方の特性を知っておきたかったであろうことも…

核廃棄物としてのプルトニウムで原爆が作れるのかは気になるところだが、結論は「難しい」だ。原発の燃えカスとしてのプルトニウムは、原爆の材料となるプルトニウム239が60%あるもののプルトニウム240という同位体が20%含まれ、両者を分離するのはとても難しい。仮に239を80%に濃縮して核兵器にしたとしても、20%ある240のところだけが勝手に先に小さく爆発して残りの80%の239を飛散させてしまう。そのせいでマンハッタン計画プルトニウム型原爆の開発が遅れたりした。

プルトニウム型原爆を作るには、ウラン238からそれ専用の核反応を起こす必要があり、つまり原爆製造用の特別な原子炉(黒鉛炉という)が必要になる。このあたりが、原発と原爆の差だと思われる。

プルサーマル

増殖炉

次世代原子力発電その1:トリウム原発

トリウムというのは天然に存在する核物質で(よって「超ウラン元素」ではない)、ウランの3〜4倍の埋蔵量があると見積もられているそうだ。しかも、トリウムは電子機器などで使われるレアメタルの採掘の副産物として得られる量だけで現在の原子力発電の需要をまかなえるというのが最大のウリ。トリウム自体は核燃料ではないがトリウムをうまく核反応させるとウラン233という核燃料を作れ、それを燃やすことで発電する。その一連のプロセスがトリウム原発

  • インドにて商用炉として使われている
  • トリウム原発は冷戦時代にアメリカが既に実用化のメドをつけていた
    • しかしトリウムでは抱き合わせで核兵器を作れないので却下されて今に至る
  • 日本もアメリカの核の傘の下に入るべく、横並びでトリウム方式を不採用
    • しかし日本自体は核武装せず非核三原則もあって、核廃棄物が大量に余ってしまい困っている

次世代原子力発電その2:進行波炉

その他、豆知識

  • 制御棒というのは核の連鎖反応を仲立ちする中性子を吸収する原理
  • 原子炉で生み出される熱をどうやって動力に変えるのか

自然エネルギーの問題点

自然エネルギーの一番の問題点は、発電効率(設備投資あたりの発電量)の低さよりも(それだけなら減価償却を長期間に引き伸ばせば相殺可能で、ソフトバンク孫社長はその一点のみを強調しているところが問題)、安定したエネルギー供給が困難である点。「農作物の価格を毎年しかも季節によらず一定にする」みたいな困難さがある。農作物ならば備蓄したり加工したりしないと安定供給できないが、電力も同じで蓄電や送電の仕組みを整えない限り使えない。そのせいで自然エネルギーは、現在の化石燃料原子力を使う方式の何倍ものコストがかかる。孫社長自然エネルギーを推進するのは、蓄電や送電にはITが不可欠であり、そこの市場を開拓する狙いが大きい。

ちなみに、世界的な電子工学の権威(赤色と緑色の発光ダイオード半導体レーザ、光ファイバの生みの親)東北大西澤潤一名誉教授は、雨量の多い亜熱帯である東南アジアの広域に水力発電地帯を設け、そこからアジア各地へ送電網を敷く計画を提唱している。教授の試算ではそれでアジアの電力需要は十分まかなえるとのこと。政治的、経済的なハードルはとてつもなく大きく、送電に使う材料は電力伝達効率の良いものを使う必要があったりと、実現困難な計画ではあるがとても魅力的。

今後のエネルギー政策の展望

今後は、新興国を中心に世界的にエネルギー需要が高まる。日本のエネルギー政策がどう転んだとしても、天然ガス原子力が増大する電力需要に応えていくことは間違いない。特に原子力は技術的にうまく行けば豊富な資源量を活用できるため、世界レベルでは研究が進んでいくと思われる。また石炭や石油の発電効率を上げ、有害物質の排出を抑える技術も着実に開発されていくだろう。もちろんそうした中で自然エネルギーも、超長期的な視野に立って着実に研究が進められていくはずだ。

したがってこれまで日本が採ってきたエネルギー政策は非常に妥当なものであり、それを大きく転換させようとする世論の是非について、もう一度吟味すべきではないかと思う。

そんな感じで。

調べ始めたら結構面白くてかなり熱中できました。社会問題に直結する科学的知識を得るというのはかなり楽しいと分かった。別のテーマでまたやってみたい。

ではまた明日。