核軍縮とシミュレーション

(こういうネタはニーズがあるのか分からないがちょっと書いてみる)

1940年頃、アメリカではマンハッタン計画が始動した。当時は第二次世界大戦の真っ只中ではあったが既に事実上決着がついていることを知っていたアメリカは大戦後の世界のパワーバランスすなわち冷戦に備えて核開発を急ぐ必要があった。(当時世界で核開発を進めていたのは米、独、ソで、ヒトラー率いるドイツが一番進んでいたが、ドイツは戦争に負けて連合国側から色々解体・没収されてしまう)

国際外交戦略的に使い勝手の良い兵器というのは、「相手に与えるダメージを自在にコントロールできる」という特長がなければならない。単に破壊力の大きいだけの兵器は、テロリズムにおいては有用かもしれないが、国際外交においては弱いものに対して「生かさず殺さず」の関係性を維持しながらイニシアチブを握ることが最も有利になる。殺してしまってはアガリが少ないからだ。

そこでアメリカは、自分たちが開発する兵器の破壊力を詳しく知る必要があった。なんとしても倫理的に許容されうる形で人体実験を行う必要があった。広島と長崎は、世界情勢に疎い日本のトップ層の振る舞いにつけ込んでうまく利用されてしまった。

大戦後もアメリカとソ連は核開発・核実験を繰り返した。次第に大衆世論も核戦争への恐怖を話題にすることが多くなっていく。冷戦のピークをすぎた辺りからアメリカを中心として核軍縮の流れに向かうことになる。

アメリカにとって当時は、既に人体実験に関するデータは取得済みであり、核兵器基本的な方式についての実実験のデータもある程度そろったタイミングだ。もちろん更なるデータは欲しいが、大元の実データを握っているので、あとはコンピュータシミュレーションによって「使い勝手の良い兵器」はいくらでも作れるだろう。むしろそのアドバンテージを未来永劫とするために、他国のキャッチアップを阻止するほうが得策だ。そういう意味で世論が抱く「世界核戦争への恐怖」というテーマは好都合だった。

そこで、世界的に核軍縮の流れが加速する。人類に大きなダメージを与える核兵器を廃棄し、戦略的で使い勝手の良い小型の核兵器のみに絞り込むことは、アメリカが他国から無茶な核攻撃を受けるかもしれないリスクを減らすことにもつながる。そして優秀な小型核兵器というのはもう他国には作れないのだ。

アメリカのロスアラモス研究所では、今この瞬間も世界トップレベルのスーパーコンピュータの中で核シミュレーションが行われている。爆発や放射能によるダメージを自在にコントロールする方法、安く大量に生産出来る核兵器の生産プロセス、相対的に技術レベルの劣る他国が開発しうる核兵器の威力とその防衛策の検討、そういう核戦略に関わる多数の要件がシミュレーション案件に落とし込まれ、スパコンのジョブとして日々実行されている。

ロスアラモス研究所で働く科学者や技術者は、米国トップレベルの頭脳をもち恵まれた環境でそうした研究開発を進めている。