エンジニアが独立して受託で稼ぎつつ自社サービスもやる方法の実験

このブログは「技術にマニアックなこだわりを持つようなプログラマが一人起業で頑張るパターン」について「試行錯誤してどうなったかをその都度色々シェアしてほしい」というニーズがあると思っているので、それが中核コンセプトです。

つまり、私を一つの実験事例として見ていただければ幸いと思って書くことにしてます。

またその中核コンテンツへの導線として、アドテク関連情報やプログラミングやデータマイニングネタをスポットでちりばめてSEO的なスケールも狙っています。

もちろん、このブログを仕事の引き合いのチャネルにする目的もありますが、それは自然な二次効果として期待できると思っています。というのもこのブログがメディアとしての機能を帯びさえすれば勝手に私とアドファイブの名前は認知度が向上していくと思うからです。なので営業面をそれほど意識せず書いていきたいとも思っています。

最近考えをまとめたこのブログの記事執筆・編集ポリシーはそんな感じです。

さて、本エントリの本題です。

フリーランスエンジニア・コンサルタントとしての業務と、会社を作って自社製品を売って組織で回していく経営と、その両方について事業方針を考えたので書きます。

(既に取引いただいてるクライアント様や引き合いをいただいてるクライアント様には都度断片的に触れてお話させていただいてきましたが、まとめておきます。2014年はこの方針でやります。)

こういうことを書くのは意味があります。ベンチャーキャピタルから資本をゲットしてドーンみたいのが全てじゃないってことを書きたいって言うのと、あとは成功した社長でもVCとの関係性について100%の満足をしてない人を何人も知っているので、起業してすぐにヒット商品を飛ばすような特別な事例を除いた8割がたの「むしろこっちの方がふつうな起業例」について情報提供したいというのもあります。

...ま、単にカネがないからそういう風にしかできないんですけどね...。

受託開発事業:「ミドルウェア設計 + コンサル提案型受注 + リーン開発」

システム受託開発の仕事はキャッシュフロー的に敷居の低いビジネスモデルです。製品を完成させるまでの間の資金がつながってかつシステムをきちんと要望通り仕上げれば利益が出るからです。

ただ受託開発モデルには難しい点もあります。

  • 収益の上限が決まっている
  • クライアントの要望をくみとりきれないリスクがある
  • 出来ることと出来ないことをクライアントに納得させなければならない
  • モチベーション問題。ふつう、エンジニアは受託よりも自社開発のほうが好き

これらの難点に対処するには工夫が必要です。いくつか詳細を考えてみます。

収益性の向上

まず収益の上限があるのは仕方がないので、とにかくなるべく利益率を高める必要があります。そこで、以下の3つを原則とします。

  • 開発難易度の高い案件をとる。そういう案件は単価も高い。
  • 案件に共通しそうなところをライブラリ・ミドルウェア化し、コスト削減する。
  • クライアントが納得する形でのベンダーロックインを狙うことでリピート受注を見込む。

いずれも本当にごく当たり前のことです。

単価の高い案件をとるには、差別化です。今のところ弊社は「アドテク」という分野で色々なテーマがあるのでそれで競争相手が他のアプリ開発とかと比べて少ない状況にありますが、今後も他の人がやってないような情報発信を多めにしていきます。

またミドルウェア化は、クライアント毎の個別の要望を除く部分で業界的に共通点となりそうなところを見極めてライセンスを弊社に蓄積していく予定です。これは受託契約の契約事項とも絡んでくるのでその部分での法務面の取り組みを強めていきます。もちろん共通部を見極める部分はソフトウェアの設計スキルがクリティカルになりますが、私はそれが得意で起業したのでそこは特に難なく出来そうだと思っています(エンジニアで独立するような人はこの点についてはみんなそうでしょう)。

リピート受注戦略については、まず難易度の高い案件を受注できている時点で技術選定におけるイニシアチブは握れるはずです。また案件の性質としてもクライアントのコスト削減や売り上げ増に結びつくかをチェックすることが大事だと思います。つまり、「納品したあとにクライアントが使うのをやめちゃったらそりゃ機能追加とかのリピート発注はしないよね」ってことです。

なので、クライアントの本業との絡みがどれだけ太いかを意識します。本業に関係するほど「使い続ける」はずなので。そうすると、引き合いがきたときのコミュニケーションの仕方としても「ちょっと先方の本業と外れそうなことを言ってきたら、こちらから本業との関連を強める方向へ促す」というのが大事になります。これはコンサルティングのスキルを発揮する必要がありそうですね。

クライアントのコミュニケーションマネジメント

続いて、クライアントの要望を汲み取ったり、出来ることと出来無いことをクライアントが納得する形で伝えたりというコミュニケーションですが、この部分は受注プロセスを工夫することで対処しようと思います。

まず引き合いがきた時点で大まかな技術的な可能性について、持ち前の知識を使って「大まかな選択肢」を即興で伝えます(エンジニアで独立する人はこういうところは当たり前に出来ることです)。引き合いミーティング第一回をフィージビリティ検討の場にしてしまいます。クライアントは自社で開発出来ないから相談してくるわけですから、ここはしっかりとイニシアチブを握って信頼の第一歩を勝ち取るべきところです。

そしてクライアントの予算とスケジュール感をヒヤリングしたら、クライアントは色々やりたいことがあって整理しきれてないパターンが殆どなので、その中で一番クライアントの本業への影響が大きくすぐに効果が出るものが何なのかをディスカッションします。こちらのスタンスとしては「高単価・小規模・短納期・その後のリピート受注」です。すぐに効果が出る小規模開発を超高単価で受注することがゴールです。それ以外はバッサリ切ります。

クライアントにとっても初めての発注先に大きな予算を投下するのはリスクですから、総予算を低くする代わりに単価を思いっきり上げて開発規模を減らす方針でいくわけです。単価が高ければ弊社がさらに外注を使ってもおつりがくるので、コアな部分だけをやることが出来ます。小規模でもプロジェクトが成功してすぐに効果が出ればクライアントは次にやりたかったことを必ず相談してくるはずです。

先日私がやったミーティングの実例では、そういうスタンスで相談を進めた結果、クライアント(マザーズ上場企業)担当者様はかなり乗り気で「いったん持ち帰って必要な追加情報を集めてまた相談する」ということになりました。つまり優先順位がバラバラで全部まとめて発注しようとしていたところを、こちらで「貴社の一番優先順位の高いところだけをまず小規模にやりましょう、つきましては技術面も含めて見極めるためにこの辺りの部分について教えていただけないでしょうか」と対応した結果そうなりました。この案件はかなりの高単価で受注できそうな気がしています。

コンサルティング事業:「高単価 + 誠意でサービス + 戦略的インプット」

最新のアドテクやデータ分析を必要とするプロジェクトについてのテクニカルコンサルティング(技術説明、営業支援、システム構築、データ分析)の仕事もしています。

こちらは既にそれなりの単価で順調に進めることが出来ているので特に方針を新しく考える必要はなさそうですが、一点意識しているのはクライアントが価値を感じる「賞味の作業・対応時間」のみに請求を行い、それ以外の付随作業についてはサービスすることです。その代わりに賞味の時間における単価をかなり高めに設定します。受注したときからそういう方針を決めてその通りやってうまく行っているので、フリーコンサルタント業務はそういう風にやるのがいいみたいです。

あともう一点は、コンサルティング業務は言って見れば情報格差を利用したアービトラージなので、インプットをコンスタントに続けていくことが大事です。なので割と海外のデジタルマーケティングやアドテクに関するメディアを読んだり、外資系のベンダーが主催する高額セミナーに参加したり、関連書籍を買って読んだりということを積極的にやってます。
ちなみに最近読んで良かったのは

  • 佐々木紀彦著「5年後メディアは稼げるか?」
  • 田畑信太郎著「MEDIA MAKERS」

です。コンサルサービスで食べていくには書籍はとてもよい情報源です。テーマを決めて編集されたコンテンツがパッケージングされているのでWebのように探しまわったりしなくて良いからです。それに一冊千円前後とセミナーを受講したりするのと比べてとても安いので気になる本は時間の許す限り読むのがいいと思います。それと、外資アドテクベンダーのセミナーはコンサル先のクライアントにお金を出してもらって出席したりしちゃいました。自腹を切らない場合はちゃんと価値提供しないと行けないですがそういう手もありなので今後も機会あればそういう提案をクライアントにして行こうと思います。

自社プロダクト事業: 「メディアビジネスのイノベーションプラットフォーム」

自社開発事業は独立以来迷走しまくりましたが、ようやく興味あるテーマが固まってきました。それは

テクノロジドリブンでメディアビジネスを再構築する

というテーマです。アメリカでは老舗の新聞社がバタバタとつぶれ、日本では新聞はまだ強いメディアですが将来性は明るくない、という風に大変化が起きてるのが広告やメディアの業界ですが、その原因となっているのがテクノロジの進歩です。しかし僕はメデイアのビジネスモデルは「面白いコンテンツが生産された」という点にもっとも価値があると思っています。いいビジネスモデルがあれば優れたコンテンツが生産される、そのことがメディア産業の最大の社会的価値だと思います。ソーシャルゲームはどんどん面白いソフトが作られていってると思います。

昨今のRTBやDSPSSPリスティング広告といったいわゆるプログラマティック広告は、「広告主」の視点で起こされたイノベーションだと思います。ものすごいのびて成果を上げています。

かたやメディア側となると、いかにコンテンツを守るか、いかに既存の収益に傷をつけずに新しいビジネスモデルを取り込めるかということをナーバスに探索しているという現状があります。僕はSSP(サプライサイドプラットフォーム)という言葉に込められた「サプライサイド」というコンセプトは間違っていると思います。メディアは広告枠の売り手なんかじゃありません。「スケールメリットを持たせたコミュニケーションチャネル」ととらえるべきだと思います。これからの時代の広告主はもちろんオウンドやアーンドでメディア運営してプログラマティックでオーディエンスとやりとりするというダイレクトチャネル性を追求してもよいといえばよいのですが、ペイドは原理的になくなることは無いと思っています。むしろマスコミュニケーションあるいはそれに準ずるネットチャネルは経済原理的にスケールメリットが効くはずなのでペイドメディアを担う何らかの経済主体が今後も絶対強い立場を維持できると思うのです。

メディア企業は特に国内の大手メディアはテクノロジにあまり強く無いことが多いです。そしてテクノロジは広告主の味方をした方が儲かるので、相対的に弱くなります。なぜテクノロジは広告主の味方をするのか。それはお金の出るTPO(タイム、プレイス、オポチュニティ)に居合わせるのがお金を儲けやすい方法だからです。携帯ショップではスマホのガジェットが売ってます。携帯を契約するときに一緒にスマホジャケットを売るのはとても効率が良いです。お金を払う瞬間というのは一番「もう一つモノを売りやすい」ときです。それと同じ理屈で、広告予算を投下するような「お金を使う」立場にすり寄った方がお金を獲得するのが簡単なので昨今のアドテクはデマンドサイドがビジネス的に盛り上がっているのだと思います。

しかし、ベンチャーとして大成功するには逆張りが重要です。メディアサイドで、テクノロジドリブンで新しいメディアビジネスをプロデュースしていきたい。そして、もちろん大もうけを狙います。つまり、メディアサイドの新しい収益機会を作ったら、システムを固定費として売るのではなく創出した収益の2〜3割を徴収するプラットフォーマーを目指します。

その具体策を考えるヒントとして、国内で最も良い情報源だと思うのは藤村厚夫氏の書く文章です。BLOGOSにデジタルメディア特集コーナーがあります。

他にも上の方で書いた東洋経済オンライン編集長の佐々木さん、LINEの執行役員の田畑さん、こうした有識者の発言は常にウォッチしながら(おぉ、俺意識高い系だ、イタい笑)テクノロジ面の役割を僕が担うくらいの気持ちで臨みたいと思います。

まずはシンプルなところから、既存のメディアにおいてすぐに使える「メディア アップセル」的なプロダクトを作るというのが今年の自社プロダクト事業になります。

というわけで

ちょっと長くなりましたが、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

そろそろちゃんと会社のホームページを作らないとです。本エントリで書いたようなことに実績事例やテクノロジ紹介を盛り込んで公開したいと思います。まだ少々お待ちください。

ではまた明日。