エンジニアのための営業入門

毎日ブログ書く宣言からのべ12日目。

今日のテーマは、エンジニアにとって中身がブラックボックスな「営業」というもののやり方についてです。私が起業して考えて実践した(している)ことを書いてみます。

一つ断っておく必要があるのは、私はB2B新規事業ビジネスを主にやっているので、B2Cの営業や、すでに市場が確立されているタイプの事業での営業のやり方はまた別になると思います。

営業の基本プロセス

基本的に大抵のビジネス書に書いてある通り、

  • アポを取る / 準備する
  • 訪問する
  • 話をする
  • 商品(もしくはこちらの事業)を説明する
  • 帰る
  • アフタフォロー

というプロセスになる。このなかで比較的本には書いていないのが、「アポを取る」と「準備をする」のやり方だ。

どうやってアポを取るのか

アポを取りたい会社のホームページの問い合わせフォームでメッセージを入力して送信しても、まずアポは取れない。私はこの方法を2,30回くらいダメ元で試しているが今のところ一度も返事が来たことがない。
アポ取りが可能なのは「一度面識のあった相手」か「相手の知人の紹介」の2つ以外ない(飛び込み営業やテレアポはやったことがないので分からないけど)。
面識を持つ機会は、巷の勉強会やハッカソンベンチャーキャピタル等が主催するネットワーキングイベント、有料のセミナーでの交流会くらいだ。そこであった人とざっくり話をして、その後つながりがありそうな人についてはパソコンのメモ帳か何かに連絡先(大抵はFacebookだけど)と関係性の内容を書いておく。したがってそれまでに交換した名刺リストにない新規顧客の開拓や、新商品開発のためのヒヤリング先の開拓をしたい場合は、積極的に勉強会やセミナーに行って情報交換をしておく必要がある。

そして、ここが一番大事なところだと思うのだけど、「相手にとって用がないのにアポを取ろうとしない」こと。これをやると大抵の場合は返事がこなかったり、好意的な返事が来ていそいそと訪問したら相手の一方的なメリットばっかり話す会議になってしまったりする。それは当然で、準備なしに訪問しても何も生まれないのだ。

どうやって準備するのか

アポを取る前に相手先を訪問する目的を決める必要がある。ここで目的というのは、自分が売りたい商品やサービスを売ることではない。自分が持っていて相手が持っていない情報の中で、相手が知りたいであろうことやそれを知ったら喜ぶであろうことを選び、訪問したときに話せるようにしておくことだ。相手が割いてくれる時間が1時間だったら、40分くらいの向こうが聞いて興味を持つであろうネタを準備する。実際の場では40分の内容のうち反応を見ながら興味なさそうなところをその場で省略して30分くらいで話す。

ここでいうネタというのは、業界の動向とか、他の訪問先で聞いた情報で機密情報にあたらないこととか、そしてもちろん自分たちが提供する商品やサービスの情報も話の中で必要なら入れていい。そもそも、そういった「相手が自分たちの商品を買うかどうかはともかく、情報として興味を持つであろうネタ」の中に自社商品の話を盛り込む余地がないのだとしたら、その商品自体がダメかアポを取ろうとしてる相手が自社の顧客ターゲットではないか、いずれかの可能性が高い。でも、自社商品がまだなくてもその分野にこれから注力していきたいという方向性があるのなら、特に売り込むものが無くても情報提供のために訪問するのはアリだと思う。その場合は「弊社これから注力していく領域はこのあたりですが具体的な事業化を検討中でして、この度の訪問はそのための情報収集も兼ねてなんです」と正直に言ってしまえばよい。

「相手が興味を持ちそうなネタ」を事前にどうやって分かるのか

これは、相手に初めて会ったときから相手がどんな立場でどんな仕事をしているかを把握するように努めておくのと、その人が会社員だったらその会社のWebサイトを見たりググってみたりしてビジネスモデルや事業内容をチェックしておく。とくにその会社が「これから始めようとしてることが何なのか」については重要なのでよく把握しておく。というのも、すでに事業が確立していて儲かっているような部分は、経済効率的に確立していたり既に他の業者が色々なものを提供しているのでライバルが多かったりするからだ。スタートアップは信用が無いので、既に確立している事業に食い込む営業のやり方は割に合わない。

そうやって相手について分かる情報を簡単に調べる時間というのは私の場合大抵10分くらいだ。というかネットで探せる情報なんてそれくらいしかないから、それで十分なのだ。そうして調べた情報と、日ごろから自分たちで考えていることやウォッチしている業界動向や技術動向などを突き合わせて、共通性のありそうなところをピックアップしていく。ここが営業において最もクリエイティブな作業だ。自分たちの情報リソースを相手に合わせてカスタマイズするのだ。こういう作業はソフトウェアの設計とよく似た作業なので、ソフト開発経験がある程度あるプログラマにとっては容易いと思う。

そして資料をどのくらいリッチに用意するかだが、私の場合は相手がかなり自社のターゲット顧客にどんぴしゃりの場合はある程度リッチな資料を用意するし、どこまで自社に合うか分からないくらいならメモ帳でテキストファイルの箇条書きでまとめるくらいにしている。箇条書きのテキストファイルはかなりオススメで、仰々しいパワポとちがって相手が受け取るのに負担を感じないので渡しやすいというメリットがある。その分、こちらが売り込むよりもまず情報を提供する姿勢だということを示しやすい。

こちらが知りたい情報はどうやってヒヤリングするか?

私の経験では、これまで述べてきたような営業のアポ取りから準備を経て臨んだ訪問は、相手から「何か聞きたいことはあるか?」とこちらに情報提供する意思を示してくれるケースが殆どなので、特にテクニックは必要ない。そう聞かれたら、率直にこちらが知りたい情報を聞けばいい。それは自分たちの商品が相手のニーズにマッチするかに関わる質問だったり、新商品を開発するにあたってのヒントとなりそうなことを質問したりと様々だ。ヒヤリングしたいことは、事前に準備していってもいいし、その場で様子を見ながら相手が話してくれそうなところを質問するだけでもいい。

ただ次のようにヒヤリングできれば(私自身はときどき意識するけどあまり実践できてないが)効率がよいかもしれない。

  • もし自分たちの商品やサービスがある程度完成してるなら、その相手特有の事情を突っ込んでヒヤリングし、自分たちの提供物がそれに深くフィットするかを確認する
  • もし自分たちの商品やサービスがまだ企画段階だったり作り途中ならば、その相手を「業界のサンプル」とみなして、「他の会社でも共通しそうな、その業種の課題になってそうなところ」を探る感じでヒヤリングする。

というわけで

とくに「市場があるか分からない商品やサービスを企画したり見込み客を開拓したりする」というエンジニア起業家が直面しそうな営業プロセスについて私見を書いてみました。既に市場が確立されているような商材の営業の場合は、もう少し話方や説明の仕方やクロージングのテクニックといったところで差別化を図る必要があるのでやり方が結構違ってくると思います。
そのあたりが、巷のビジネス書を読んでもエンジニアが営業について「?」となってしまう所以じゃないかとも思います。

ではまた明日。