多様体シリーズ(2)

今日は昨日に引き続き、多様体シリーズの第2回です。多様体の定義の「局所座標」について、もう少し吟味してみます。

連載バックナンバー:

硬派でもなく、エロでもなく、数学をやるのです。

第一回はイントロダクションということで、分かりやすさを心がけたつもりが、硬派とエロという万人に迎合する内容になってしまったので、今回以降はちゃんと数学の話を書こうと思います。私が書きたかった「分かりやすい喩え話」は硬派でもエロでもないのです。

なので、エロの続きを期待した方、残念でした。第一回は釣りでした。この先はちゃんと多様体を学びたい方だけご購読ください。
ディアゴスティーニの初回限定モデルかよ)

局所座標

多様体の勉強で最初にとまどったのは「局所座標」。「(大域)座標」じゃなくて「局所座標」を使う理由は納得できるけど、そもそもなぜいきなり座標の話がでてくるのかが疑問。図形を調べるのに座標は関係ないんじゃないのか、と。そこで、よく教科書を読んでみると、どうやら

  • 本当は座標のような「具体的な数字列」なんかで「形」を表現したくない
  • けど「絵に描いて表現できないくらい多様な形」を表現する何らかの方法が必要なのは確か
  • だから仕方が無いのでとりあえず便宜的に何らかの座標でまずは表現しておいて、
  • 「座標をはがして別の座標に付け替えても変わらない性質」を調べられるようにしておこう

という話の流れのようだ。

「座標」以外では「形」を表現できないのか?

しかし本当に座標でなければダメなんだろうか。例えば2点間の距離を使って多様体を定義するというのはダメなのか。距離のほうがよっぽど図形の性質を直接表現するように思える。距離で定義したら何かマズいことが出てくるんだろうか。

試しに平面上の1次元多様体である「円(の円周部分)」について考えてみる。この「円」という形を「距離」だけで定義するとしたら、素朴に「中心からの距離が1の点の集合」と決めればいいだろう。「中心」が「円周上の点ではない」のが少し気になるが、そのせいで何かマズいことが起こるとも思えない。マズいことはなさそうだ。

ここでちょっとソフトウェア開発のアナロジーで考えてみる。システムのある動作をマズい(=バグ)とみなすかどうかは要件次第だ。多様体を距離で定義しても要件を満たしているように思えるのは、要件を小さく捉えているからかもしれない。では、多様体のもっと大きな要件って何だろう?「形が分かる」ための要件って何だろう?

「形」とは「無限の点どうしの相互位置関係」のこと

そこで考えてみて思ったのは、「形」というのは「複数の点の間の位置関係」だということ。「点が一つ」は「形」とは呼べなそうだ。でも「点が二つ」で位置関係が分かれば、ちょっとは「形」っぽい。さらに「点が3つ」で位置関係が分かれば、よりいっそう「形」っぽくなってくる。

突き詰めると「形」とは「無限の点の位置関係」のことだといえそうだ。ここでいう無限って加算と非加算のどちらなのかは気になるが「形」というからにはやはり実数のような濃度だろう。ではそういう濃度だとしたとき、「点どうしの位置関係」を表現するにはどうしたらよいのだろうか。つまり上下左右みたいなのを表現するにはどうしたらよいかってことだ。どうやら、2次元の平面座標を「見本」としておいて、実際の点を「見本」にマッピングする方法が良さそうに思えてくる。例えば「点が3つ」だったら、「見本」は「三角形の頂点」みたいにしておいて実際の点とマッピングすれば、「位置関係」を表現できたことになるだろう。ここでいうマッピングというのは1対1対応だとしてよさそうだ。では「点が3つ」じゃなくて「無限」だったら?

…と、ここまで考察すると、もう「多様体の答え」を「カンニング」してしまいたくなる。つまり、「見本」となる平面と実際の「形」との間で「位相構造」が保たれるという条件が答えだ。「局所座標」すなわち「ユークリッド空間の開集合と位相構造が一致する一対一(=同相)写像」という定義が必然的だってことがやっと腑に落ちた感じだ。

なるほどねぇ、さすがに良く練られているなぁ、という感じ。

というわけで

今回は「局所座標」を多様体の定義に使う理由が良く分かった。この先は「座標によらない性質」を色々調べていくことになるだろう。今の時点では局所座標しか定義してないプレーンな多様体なので「座標を取り替えても云々」みたいな話をしようと思ってもネタがない。

だからきっと次回の微分可能性微分構造というのが「座標を取り替えても変わらない何か」を含んでいるのだろう。それを期待して今日の記事を終えることにしよう。つづく。